映画「アルキメデスの大戦」のあらすじと感想です
ネタバレ御免です。観賞前の方はご注意ください
目次
1.概要
2.あらすじ
3.空母建造を目指す山本五十六、巨大戦艦建造を目論む造船技士・平山
4.大和の設計図を起す櫂、エンジニアとしての才能
5.協力者を求め大阪へ、天才数学者のチカラを発揮
6.会議室で繰り広げられるロジックバトル
7.最後はやはり数学で!櫂は平山に勝つことが出来たのか
8.では大和は?平山が語る大和が背負うべき悲しき運命とは?
9.今も輝き続ける大和
1.概要
「週刊ヤングマガジン」連載の三田紀房のコミックを原作にした歴史ドラマ。1930年代の日本を舞台に、戦艦大和の建造計画を食い止めようとする数学者を描く。監督・脚本・VFXを担当するのは、『ALWAYS』シリーズや『永遠の0』などの山崎貴。主演は『共喰い』や『あゝ、荒野』シリーズなどの菅田将暉。軍部の陰謀に数学で挑む主人公の戦いが展開する。(yahoo映画より引用)
2.あらすじ
昭和8年(1933年)、第2次世界大戦開戦前の日本。日本帝国海軍の上層部は世界に威厳を示すための超大型戦艦大和の建造に意欲を見せるが、海軍少将の山本五十六は今後の海戦には航空母艦の方が必要だと主張する。進言を無視する軍上層部の動きに危険を感じた山本は、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を軍に招き入れる。その狙いは、彼の卓越した数学的能力をもって大和建造にかかる高額の費用を試算し、計画の裏でうごめく軍部の陰謀を暴くことだった。(yahoo映画より引用)
3.空母建造を目指す山本五十六、巨大戦艦建造を目論む造船技士・平山
満州事変を経て満州国を建国し、中国への進出を図った日本は、同じく中国での覇権を争う欧米列強との対立が深まり世界で孤立化をし始めていた。帝国海軍ではいずれ必ず訪れるであろう戦争に向けて、新たな艦船の建造をめぐる会議が行われていた。
造船中将である平山らは「世界最大級の巨大戦艦」の建造を立案していた。
日露戦争での日本海海戦勝利以後、日本の海軍では「より大きな射程距離を持つ大砲を装備した、巨大な戦艦こそが海軍の王道である」という所謂「大艦巨砲主義」が幅を利かせており、過去最大級の戦艦を造ることは戦力のみならず、兵や国民の士気、期待も高まり、戦争の際の活力となると考えられていた。
一方、海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は「これからの戦争は航空機戦闘が重要になる」と予見し、航空母艦(空母)を建造する「藤岡案」を支持。
また、山本は巨大戦艦を造り国民の対戦感情を煽ることは危険だと考えていた。
歴史を見ればこの時の山本の考えは先見の明があったと言えるわけだが、航空機戦闘の実績も乏しいこの時代ではこの考えは受け入れられにくく、また戦艦建造に対しては様々な既得権益や汚職が絡んでいたことから、保守的な形式である「巨大戦艦建造」の平山案に結論が進みつつあった。
山本らは平山案を覆すため、巨大戦艦の建造費見積もりに着目した。
サイズ、装備、造船ドックの増築費なども考えると空母(藤岡案)に比べて安い金額を提示していることは明らかに不自然であり、虚偽の数字であると考えたのである。
しかし、戦艦の正規の建造費を算出するには時間も情報も足りず、造船技士である藤岡にも困難であった
そんな折に彼らが出会ったのが天才数学者・櫂直(菅田将暉)
海軍と財閥の汚職に意見をしたことが原因で大学を退学させられ、料亭で芸者を相手にヤケ酒を食らっているところであったが、海軍少将である山本にも物怖じせず数学で口論をする櫂
料亭でのわずか5分足らずのやり取りでも彼の数学能力が人並み外れていることが垣間見え、山本は彼を主計局少佐として海軍省に入省させ、平山案の見積もり不正を暴く任務を依頼するのであった。

↑美しいものを見ると測らずにはいられない櫂直
4.大和の設計図を起す櫂、エンジニアとしての才能
海軍省に到着し早速見積もりに取り掛かろうとする櫂だったが、肝心の大和の仕様に関する情報がほとんどゼロであることを知る。会議で出された情報は軍事機密であることから、直接関与していない櫂らには開示できないと言うのである。
そこでまずは本物の軍艦をこの目で見て、感覚をつかむことから始めようと、部下の田中少尉とともに横須賀に赴き、停泊中の戦艦・長門へ見学に行くことに
乗艦時、櫂は「戦艦というのは美しいものだなあ、人間はかくも美しいものを作り出せるものなのか」と漏らす
彼はこの仕事を受けることを渋ってはいたものの、徐々に戦艦に魅せられていく
長門の艦長は山本の旧友であることから艦に招き入れてもらうことが出来、さらに櫂は艦長の目を盗んで長門の図面を盗み見、描き写すことに成功
翌日、櫂はお気に入りのメジャーで長門の寸法を測り始めた
櫂「美しいものを見ると測りたくなるのは人間の本能だ。君はこの戦艦を測りたいとは思わないのか?」
田中「はい、まったく」
櫂「変わってるな!人として何かが欠けているのではないか」
多分田中少尉に何かが欠けているわけではない。
櫂が何かよくわからないものを持っているだけだろう
彼の言葉で少ししっくり来るものがある
「なんでも自分で測ってみないと気が済まないのだ。こうして自分の手で測ることでその感覚をつかむことが出来る」
これは明らかにモノづくりをする「エンジニア」の考え方だ
数学者であると同時に作り手としての才能も垣間見える
一日かけて計測をした櫂
そんな櫂のひたむきな姿に、当初は非協力的だった田中少尉も密かに計測に協力してくれていた
櫂と田中少尉が打ち解けていく様子はどこかハートウォーミングである
海軍省に戻り、次に櫂が取り組んだのは長門の図面を自分の手で起こすこと
そしてその感覚を元に大和を図面化することであった
櫂はなんと一晩で長門の図面を描き上げた
造船に関する書物を短時間の独学で概修したという
もう数学の天才とかじゃなくて造船設計の天才である
この所業によって完全に櫂のカリスマ性に魅せられた田中少尉はこの後櫂以上にひたむきに協力してくれるようになる
田中少尉は忠実なワンちゃんのようでとても一生懸命で愛すべきキャラクターである。
そして、長門の図面をもとにいよいよ大和の設計を行う櫂
「ついに敵が姿を現したぞ」
描き上げた櫂はそう漏らした
その言葉に、大和の巨大さ、想像もつかない創造物であることが窺える
かくして櫂と田中は大和の建造費を見積もるためのベースとなる情報をゼロから築いたのであった。

↑エンジニアとしての才能を開花させる櫂
しかしまたもそれらは軍事機密、内部から入手することは不可能であった。
協力者を民間の下請け企業に求め、各社と交渉にあたる櫂と田中
平山造船中将の協力者である嶋田の圧力がかかり、協力してくれるものは現れなかった。
そんな中、櫂のかつての教え子であり恋仲であった尾崎鏡子(浜辺美波)が情報をもたらしてくれた。
鏡子の父は造船業を営んでおり、かつて尾崎造船の協力業者であったが、汚職に意見して業界から追い出されてしまった大里を紹介してくれたのである。
大里は大阪に居り遠方だが、他にアテもない彼らは大阪へ赴く
かつて軍に干された経験のある大里はなかなか協力してくれないが、鏡子が直接赴いて説得を試みてくれたほか、たった一晩で大和の図面を描き上げた櫂の能力に惚れ、ついに協力を得ることができた。
あらゆる船、軍用船の価格資料をもつ大里の協力が得られ、大和の見積もりに取り掛かる櫂であったが、そこに海軍省から電報が届く
新造艦の採用案決定会議が早まり明日となったというのである。
一晩で見積もりを行うことは不可能、万事急すかと思われた
櫂はここで数学の能力を発揮する
艦ごとの鉄の総数量と製造費に相関関係を見出したのである
いくつかの艦の製造費の情報をもとに、鉄の数量からコストを算出する「回帰式」を導いた櫂
あとは大和建造に必要な鉄の総量を算出し、この数式に当てはめるだけ
夜行列車に飛び乗り車中で手分けして鉄の数量を算出する一行
大和建造費の算出まであと一歩という所まで迫った
山本らは櫂たちの作業が終わるまで何とか引き延ばそうとするも会議は終盤に
櫂はここで時間稼ぎをするため自らの導いた「戦艦コスト回帰式」を披露
櫂によれば規模の小さい船や潜水艦は作業コストがかかるため鉄の量に対してコストが高くなる。
一方大きな戦艦になればなるほど鉄トン数/コスト比は一定になるという
この式を用いて、幾つか戦艦の実際の建造費をピタリ言い当てるという神業を披露した櫂
櫂の数学能力と論劇能力が発揮されるシーンである。
この間に田中が大和の鉄トン数算出を追え、大和の建造費を提示
平山造船中将の提出コストの2倍近い額がかかることを提示した
言葉に詰まり苦し紛れの言い逃れをしようとする平山勢。しかし当の平山本人は押し黙っている
大和の正確な建造費の提示がない限りは平山案を受け入れるわけにはいかない、と会議の決定は持ち越されるかに見えた
しかしここで平山が口を開く
「君は薄っぺらい正義を語っているが、世の中にはそんなきれいごとでは語れない誠の正義と言うものがあるのだよ。世界最大級の戦艦ともなれば国内のみならず敵国からも注目を浴びる。正確なコストを公表すれば必ず他の国の人間にも知れ渡ることになり、無用な警戒心を抱かせ戦争への感情を煽ることになってしまう。敵を欺くにはまず味方からだ」
虚偽の金額は大和の建造規模を他国に知られないようにするためのカモフラージュだ、という
平山は本心なのか咄嗟の詭弁なのか、非常に理にかなった理由を示したのである。
これには櫂をはじめのその場の全員が閉口した。
新造艦は平山案の巨大戦艦・大和に決してしまった
~ひとこと感想~
平山造船中将を演じるのは田中泯さん
このシーンの平山の語りはすさまじい世界観を感じた。
菅田将暉さんが痛快なしゃべりで議論を支配していくのとは対照的で、
田中泯さんは静かに、重みのある言葉で、整然と語る感じだ
彼の言葉が本心なのか、詭弁なのかも、あの無表情で語られると推し量れず、どのように反論すべきか迷ってしまうし、当然理も通っているから尚のことである。
これぞ天才・櫂直の宿敵に相応しい相手と言える、名演技であった
自分が信じていた「数字」の無力さを思い知らされた櫂は打ちひしがれてしまう
ふとそこに置かれていた大和の模型を見て櫂はあることに気づき、平山に問う
「海洋波はどれくらいの高さを想定して設計をしましたか?」
櫂が言うには
台風などで高波が発生した際、大和ほどの全長を持つ巨大戦艦の場合、波と波に跨るような形になり、これに耐えるよう船体を設計しなければならない
波の高さや位置などには様々な組み合わせがあり、それらすべてを網羅した最適な船体を設計するために櫂は新しい数式を導き出したというのである。
大和が前人未到の超巨大戦艦であるが故に、長年軍艦を設計し続けてきた平山でも、気づくことが出来なかった盲点であった。
致命的な欠陥を抱えた船を設計してしまったことで平山は敗北を認め、自ら案を取り下げる
最後の最後に、櫂は自分の一番の武器である「数学」によって平山に勝ったのであった
かくして新造艦は藤岡案の空母に決したのである
そこには平山と櫂の最後のやり取りがあった
大和の設計を完成させるための数式は櫂が持っている
平山は自身の設計室に櫂を呼び出した
そこには大和の1/20模型が置かれていた。
平山は言う
「美しかろう。君は既にその手でこれを生み出したことがある。君も本心ではこの船が出来上がる姿を見たいと思っているはずだ」
これには櫂も心を揺さぶられる
しかし櫂は「この戦艦は日本人の大戦感情を煽り、戦争に向かわせる。生み出してはならない」と理性でその感情を抑えつけた
平山は続ける
「この船が出来ようと出来まいと、戦争は起こる。世界情勢とこの国の民の感情はもう止まれないところまで来てしまった。
日本人は誇りに生きる民族だ。一度戦争となれば最後の一兵まで闘い、日本という国が亡びるまで闘いを辞めないだろう。しかし、その時この船があればどうだ?
絶対に沈むことがない、日本を象徴するような戦艦が撃沈された時、日本人は敗北を認め、闘いを辞めることが出来るのではないだろうか?この船はそんな日本人の心の依り代となる船なのだ」
平山は沈むため、戦争に負けるために大和を造らなければならないというのだ
あまりの考えに言葉を失う櫂
平山の言葉にはきっと嘘はない
でなければこれほどの説得力があろうはずがないのである
遂に櫂は平山の説得を受け入れ数式を渡す
数年後、大和の進水式には櫂も出席していた
沈みゆく運命を背負って作られた大和の姿を見て「この国の行く末そのものを見ているようだ」と涙を流すのであった
まず櫂は元々数学者でありながらひょんなことから戦艦の設計をすることになった
戦艦を間近で見てその美しさに魅了され、居てもたってもいられなくなって自分で設計をしてみるのである。
好奇心をガソリンにして仕事に取り組めるというのは実に素直で一番効果的なはずだが、今の世の中にはそんな純粋な気持ちで取り組める仕事の何と少ないことか
櫂のようにそこに美しさなり、面白さなりを見出す癖をつけるようにしたいものである
また、その好敵手である平山造船中将はと言えば、彼はひとえに使命感をもって戦艦を造っていると言える。大和を作る意味を見出し、それが如何に悲しき宿命であっても役割を全うするのである。
彼は造船設計ビギナーの櫂に対しても素直に負けを認め、案を取り下げるという器の大きさも持ち合わせていた。
その道の第一人者である男こそかくあるべきという姿だ
部下を持つ世の中のおじさんたちに、ぜひ見習ってもらいたい人間像である
大和は帝国海軍のシンボルとして軍や国民の心の支えとなるも、巨大戦艦であるが故に出撃にも莫大なコストが掛かることなどから、結局活躍する機会もないまま沈められてしまった哀しき戦艦である
それでも今日に至るまで日本人に語り継がれ、こうしてエンターテイメントのモデルとなっている
これはもう日本の象徴として大和がその役割を果たすことが出来たといってよいのではないだろうか
大和には、これからも近代日本史のシンボルとしてあり続けてもらいたいものである。
ああ、現代に残っていてほしかった
櫂「美しいものを見ると測りたくなるのは人間の本能だ。君はこの戦艦を測りたいとは思わないのか?」
田中「はい、まったく」
櫂「変わってるな!人として何かが欠けているのではないか」
多分田中少尉に何かが欠けているわけではない。
櫂が何かよくわからないものを持っているだけだろう
彼の言葉で少ししっくり来るものがある
「なんでも自分で測ってみないと気が済まないのだ。こうして自分の手で測ることでその感覚をつかむことが出来る」
これは明らかにモノづくりをする「エンジニア」の考え方だ
数学者であると同時に作り手としての才能も垣間見える
一日かけて計測をした櫂
そんな櫂のひたむきな姿に、当初は非協力的だった田中少尉も密かに計測に協力してくれていた
櫂と田中少尉が打ち解けていく様子はどこかハートウォーミングである
海軍省に戻り、次に櫂が取り組んだのは長門の図面を自分の手で起こすこと
そしてその感覚を元に大和を図面化することであった
櫂はなんと一晩で長門の図面を描き上げた
造船に関する書物を短時間の独学で概修したという
もう数学の天才とかじゃなくて造船設計の天才である
この所業によって完全に櫂のカリスマ性に魅せられた田中少尉はこの後櫂以上にひたむきに協力してくれるようになる
田中少尉は忠実なワンちゃんのようでとても一生懸命で愛すべきキャラクターである。
そして、長門の図面をもとにいよいよ大和の設計を行う櫂
「ついに敵が姿を現したぞ」
描き上げた櫂はそう漏らした
その言葉に、大和の巨大さ、想像もつかない創造物であることが窺える
かくして櫂と田中は大和の建造費を見積もるためのベースとなる情報をゼロから築いたのであった。

↑エンジニアとしての才能を開花させる櫂
5.協力者を求め大阪へ、天才数学者のチカラを発揮
さて、見積もりをするには図面をもとに各工程にどれくらいの材料費、作業日数、人件費などがかかるのか、それらを示す「価格表」が必要であった。しかしまたもそれらは軍事機密、内部から入手することは不可能であった。
協力者を民間の下請け企業に求め、各社と交渉にあたる櫂と田中
平山造船中将の協力者である嶋田の圧力がかかり、協力してくれるものは現れなかった。
そんな中、櫂のかつての教え子であり恋仲であった尾崎鏡子(浜辺美波)が情報をもたらしてくれた。
鏡子の父は造船業を営んでおり、かつて尾崎造船の協力業者であったが、汚職に意見して業界から追い出されてしまった大里を紹介してくれたのである。
大里は大阪に居り遠方だが、他にアテもない彼らは大阪へ赴く
かつて軍に干された経験のある大里はなかなか協力してくれないが、鏡子が直接赴いて説得を試みてくれたほか、たった一晩で大和の図面を描き上げた櫂の能力に惚れ、ついに協力を得ることができた。
あらゆる船、軍用船の価格資料をもつ大里の協力が得られ、大和の見積もりに取り掛かる櫂であったが、そこに海軍省から電報が届く
新造艦の採用案決定会議が早まり明日となったというのである。
一晩で見積もりを行うことは不可能、万事急すかと思われた
櫂はここで数学の能力を発揮する
艦ごとの鉄の総数量と製造費に相関関係を見出したのである
いくつかの艦の製造費の情報をもとに、鉄の数量からコストを算出する「回帰式」を導いた櫂
あとは大和建造に必要な鉄の総量を算出し、この数式に当てはめるだけ
夜行列車に飛び乗り車中で手分けして鉄の数量を算出する一行
大和建造費の算出まであと一歩という所まで迫った
6.会議室で繰り広げられるロジックバトル
会議までに算出が終わらなかった櫂らは会議室に作業を持ち込むが、決定ありきの会議は結論を急がれようとしていた山本らは櫂たちの作業が終わるまで何とか引き延ばそうとするも会議は終盤に
櫂はここで時間稼ぎをするため自らの導いた「戦艦コスト回帰式」を披露
櫂によれば規模の小さい船や潜水艦は作業コストがかかるため鉄の量に対してコストが高くなる。
一方大きな戦艦になればなるほど鉄トン数/コスト比は一定になるという
この式を用いて、幾つか戦艦の実際の建造費をピタリ言い当てるという神業を披露した櫂
櫂の数学能力と論劇能力が発揮されるシーンである。
この間に田中が大和の鉄トン数算出を追え、大和の建造費を提示
平山造船中将の提出コストの2倍近い額がかかることを提示した
言葉に詰まり苦し紛れの言い逃れをしようとする平山勢。しかし当の平山本人は押し黙っている
大和の正確な建造費の提示がない限りは平山案を受け入れるわけにはいかない、と会議の決定は持ち越されるかに見えた
しかしここで平山が口を開く
「君は薄っぺらい正義を語っているが、世の中にはそんなきれいごとでは語れない誠の正義と言うものがあるのだよ。世界最大級の戦艦ともなれば国内のみならず敵国からも注目を浴びる。正確なコストを公表すれば必ず他の国の人間にも知れ渡ることになり、無用な警戒心を抱かせ戦争への感情を煽ることになってしまう。敵を欺くにはまず味方からだ」
虚偽の金額は大和の建造規模を他国に知られないようにするためのカモフラージュだ、という
平山は本心なのか咄嗟の詭弁なのか、非常に理にかなった理由を示したのである。
これには櫂をはじめのその場の全員が閉口した。
新造艦は平山案の巨大戦艦・大和に決してしまった
~ひとこと感想~
平山造船中将を演じるのは田中泯さん
このシーンの平山の語りはすさまじい世界観を感じた。
菅田将暉さんが痛快なしゃべりで議論を支配していくのとは対照的で、
田中泯さんは静かに、重みのある言葉で、整然と語る感じだ
彼の言葉が本心なのか、詭弁なのかも、あの無表情で語られると推し量れず、どのように反論すべきか迷ってしまうし、当然理も通っているから尚のことである。
これぞ天才・櫂直の宿敵に相応しい相手と言える、名演技であった
7.最後はやはり数学で!櫂は平山に勝つことが出来たのか
苦労してやっとの思いで見積もりの不正を暴くことが出来た櫂であったが、平山の言葉一つでそれが簡単にひっくり返されてしまった。自分が信じていた「数字」の無力さを思い知らされた櫂は打ちひしがれてしまう
ふとそこに置かれていた大和の模型を見て櫂はあることに気づき、平山に問う
「海洋波はどれくらいの高さを想定して設計をしましたか?」
櫂が言うには
台風などで高波が発生した際、大和ほどの全長を持つ巨大戦艦の場合、波と波に跨るような形になり、これに耐えるよう船体を設計しなければならない
波の高さや位置などには様々な組み合わせがあり、それらすべてを網羅した最適な船体を設計するために櫂は新しい数式を導き出したというのである。
大和が前人未到の超巨大戦艦であるが故に、長年軍艦を設計し続けてきた平山でも、気づくことが出来なかった盲点であった。
致命的な欠陥を抱えた船を設計してしまったことで平山は敗北を認め、自ら案を取り下げる
最後の最後に、櫂は自分の一番の武器である「数学」によって平山に勝ったのであった
かくして新造艦は藤岡案の空母に決したのである
8.では大和は?平山が語る大和が背負うべき悲しき運命とは?
平山案は取り下げとなったが、大和は実際に建造されているそこには平山と櫂の最後のやり取りがあった
大和の設計を完成させるための数式は櫂が持っている
平山は自身の設計室に櫂を呼び出した
そこには大和の1/20模型が置かれていた。
平山は言う
「美しかろう。君は既にその手でこれを生み出したことがある。君も本心ではこの船が出来上がる姿を見たいと思っているはずだ」
これには櫂も心を揺さぶられる
しかし櫂は「この戦艦は日本人の大戦感情を煽り、戦争に向かわせる。生み出してはならない」と理性でその感情を抑えつけた
平山は続ける
「この船が出来ようと出来まいと、戦争は起こる。世界情勢とこの国の民の感情はもう止まれないところまで来てしまった。
日本人は誇りに生きる民族だ。一度戦争となれば最後の一兵まで闘い、日本という国が亡びるまで闘いを辞めないだろう。しかし、その時この船があればどうだ?
絶対に沈むことがない、日本を象徴するような戦艦が撃沈された時、日本人は敗北を認め、闘いを辞めることが出来るのではないだろうか?この船はそんな日本人の心の依り代となる船なのだ」
平山は沈むため、戦争に負けるために大和を造らなければならないというのだ
あまりの考えに言葉を失う櫂
平山の言葉にはきっと嘘はない
でなければこれほどの説得力があろうはずがないのである
遂に櫂は平山の説得を受け入れ数式を渡す
数年後、大和の進水式には櫂も出席していた
沈みゆく運命を背負って作られた大和の姿を見て「この国の行く末そのものを見ているようだ」と涙を流すのであった
9.今も輝き続ける大和
この作品は何かものづくりのような仕事に取り組むにあたって必要なものが詰まっていると感じた。まず櫂は元々数学者でありながらひょんなことから戦艦の設計をすることになった
戦艦を間近で見てその美しさに魅了され、居てもたってもいられなくなって自分で設計をしてみるのである。
好奇心をガソリンにして仕事に取り組めるというのは実に素直で一番効果的なはずだが、今の世の中にはそんな純粋な気持ちで取り組める仕事の何と少ないことか
櫂のようにそこに美しさなり、面白さなりを見出す癖をつけるようにしたいものである
また、その好敵手である平山造船中将はと言えば、彼はひとえに使命感をもって戦艦を造っていると言える。大和を作る意味を見出し、それが如何に悲しき宿命であっても役割を全うするのである。
彼は造船設計ビギナーの櫂に対しても素直に負けを認め、案を取り下げるという器の大きさも持ち合わせていた。
その道の第一人者である男こそかくあるべきという姿だ
部下を持つ世の中のおじさんたちに、ぜひ見習ってもらいたい人間像である
大和は帝国海軍のシンボルとして軍や国民の心の支えとなるも、巨大戦艦であるが故に出撃にも莫大なコストが掛かることなどから、結局活躍する機会もないまま沈められてしまった哀しき戦艦である
それでも今日に至るまで日本人に語り継がれ、こうしてエンターテイメントのモデルとなっている
これはもう日本の象徴として大和がその役割を果たすことが出来たといってよいのではないだろうか
大和には、これからも近代日本史のシンボルとしてあり続けてもらいたいものである。
ああ、現代に残っていてほしかった
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